買い手側M&Aの実行支援
M&Aで買ったあとに、現場が回らない理由
財務も法務も問題なし。価格も妥当。それでも、買収から数ヶ月で現場が回らなくなる——。買い手側のM&Aで実際に起きるトラブルの多くは、決算書の外側、つまり数字に表れない「業務の属人化」から生まれます。買収前に何を見ておくべきかを整理します。
財務諸表に出ないリスク——業務の属人化
財務DD(デューデリジェンス:買収前に行う財務面の調査)が見るのは、数字になった過去です。一方、買収後に問題を起こすのは、数字にならない現在——「誰が、どうやって、日々の業務を回しているか」です。中小企業では、受発注の采配、価格の決め方、主要顧客との関係、製造のコツといった中核業務が、特定のベテランの頭の中にだけある状態が珍しくありません。
オーナー経営者や番頭格のキーパーソンが、譲渡を機に引退する。その瞬間、帳簿上は健全な会社から、業務を再現する手段が失われます。
買っているのは決算書ではなく、動いている業務である。
買収前に見る——オペレーションのデュー・デリジェンス
だからこそ、買収判断の材料には、財務・法務に加えて業務の実態評価が要ります。見るポイントは、たとえば次の4つです。
- 手順の文書化:主要業務の手順は文書になっているか。それとも人の記憶か。
- 属人業務の特定:「この人しかできない」業務はどれで、誰に紐づいているか。
- キーパーソンの意向:その人たちは譲渡後も残るのか。引き継ぎにどれだけの期間が要るか。
- システムとデータ:業務データは引き継げる形で残っているか。個人のExcelに閉じていないか。
この評価は、買収をやめるためのものではありません。価格や条件、引き継ぎ期間の交渉材料になり、買収後の計画の精度を上げるためのものです。リスクが見えていれば、対策を織り込んで買えます。
買収後の100日で決まる
M&Aの実務では、統合の最初の100日の計画を重視する考え方が広く使われています。誰が・何を・どの順で引き継ぐのか。現場の従業員に「変わらないこと」をどう伝え、「変わること」の段取りをどう示すのか。この計画(100日プラン)を契約完了(クロージング)前に作っておくことが、属人化リスクへの最大の備えになります。
体制がないなら、体制からつくる
もっとも、ここまでの検討を専任なしの兼務で回すのは現実的ではありません。実際、M&Aが止まる理由の多くは、案件の良し悪しではなく社内の検討体制の不足です。専任を置けない規模の会社であれば、検討・進行の体制ごと社外に持つという選択肢もあります。
まとめ
買収後に現場が回らなくなる原因の多くは、財務DDでは見えない業務の属人化にあります。買収前にオペレーションを評価し、引き継ぎと100日プランを準備してから買う。「数字の外」を見る目を持つことが、M&Aを成功に近づける一番の近道です。
ご相談:検討状況と体制の不足を、相談の場で一緒に整理します。
自社の課題を相談する※ 本記事は一般的な情報提供であり、個別案件の判断・価格・条件について助言するものではありません。法務・税務・会計等の専門判断は、士業等の専門家確認を前提とします。